全前置胎盤のハイブリット帝王切開
今日のお話はどこの施設でもできるってわけではないのですが、
最近の帝王切開の考え方について触れていきたいと思います。
さて、私が手術室に来たばかりの20年前までは帝王切開といえば、
縦切開、横切開かくらいの違いしか認識していませんでした。
胎盤の位置によってリスクが云々とかはあまり考えたことがありませんでした。
とにかく機械出しをすると、手術のテンポが早く、なんともついていくのが精一杯で
これはある程度、経験を積まないと難しいなぁ。苦手だなぁと。
私は運動神経が良い方ではないので、テンポ良いう手術は苦手で、できれば脳外科のような術野の読み解きは難しいけど、静かな手術が好きなので、やはり最初は苦手でした。
その帝王切開ですが、最近うちの施設ではハイブリット手術室(カテーテル手術と外科手術の併用)ができたことにより、知見が一気に変わってきました。
帝王切開の場合ですと、内腸骨動脈バルーンを留置して、全前置胎盤の帝王切開を行うというものです。
内腸骨動脈を閉塞することで子宮動脈への血流も遮断できますので、
帝王切開の出血が抑制できるという考え方です。
外傷の時に大動脈バルーンを留置するのと同じようなことですね。
帝王切開は命がけですから、これは妊婦さんにとって見れば物凄い恩恵なわけです。
もちろん意義があるので、やろうかとなるわけです。
しかし、いざやろうとなると手術室の中で血管造影しながらなので、放射線科Drによるバルーン留置。
造影するので検査技師さんも必要となります。
これに産婦人科医、麻酔科医、オペ看、出血時の自己血を使うなんてことになれば臨床工学士などなど。
帝王切開をやるにしても大人数、大騒ぎでやることになります。
時間も定期というよりは破水したらとかになるので、夜中にやることなればそれはそれは調整が大変なわけです。
手術体位も開脚仰臥位(砕石位では足の付け根が曲がって、バルーン留置が難しい)で股の間に医師がたって手術を行いたいそうです。
これがまた面倒くさい。
仰臥位ならばカテ用のすごい長いベッドを使用できるが、足を開くためにベッドを入れ替えるなどなど。
それらの準備や調整を30分くらいでやらなければならないとなると….。
もちろんシュミレーションやマニュアルの整備はしますが、それですぐに理解してできるとはとても思えない。
時代とともの手術手技や知見はどんどん高度化していく。
ハイブリット手術室や器具などは買ってしまえばすぐに使用することになるのですが、
それに対応する人財を育てるには、物凄い年月がかかるわけです。
知識と経験。たった2つの単語ですが、これには最低でも5年は必要なわけです。
物があれば、高度なことがすぐにできるわけではありませんよーというお話でした。
あくまでも「手術」は「人の手の術」な訳です。機術ではありませんね。(今のところ)